![]() ●寄稿者プロフィール ライター/日本映画学校卒業。98年頃からエンターテインメント系媒体で映画紹介、批評などを執筆。 |
映画作家その1(ケルト) どんなジャンルにも言えることだが、作家という生き物が創造した作品群に触れると、その作家の故郷の風土や社会的環境がもたらした“影”を感じる。あらゆる作家は、この“影”を丸ごと受け入れたり、削ぎ落としたり、徹底的に拒否したり、そんな格闘を繰り返しながら作品を創りあげているように私には思えてならない。それは映画作家でも同様だ。たとえば、昨今のアジア、中東、もしくはこのコーナーで語るケルト映画を見れば一目瞭然である。もちろん、アジア映画にもハリウッド的な作品があるが、それは先に語った“徹底的拒否” 一 つまり、「コンプレックス」という言葉で言い表わすことができるだろう。言うまでもないが、優れた映画作家とは、常に自分に染み付いた“影”に自覚的なのだ(稀に例外もあるが……)。この“影”と映画作家の内に秘めたるテーマとの因果関係はどうにも拭えないように私には思えるのだ。 今回、紹介したいのは、アイルランド出身のニール・ジョーダン監督。彼の映画には、故郷のアイルランドを舞台とした作品が多い。その為か作品で語られる空の色で、突き抜けるような青空を目撃するのは難しい。大抵、どんよりとした曇り空で閉塞感のあるアイルランド独特の空がそこにはある。彼はその地方が持つ独特の空気を見事に、偽りなく、フィルムに焼きつける。しかし、彼の才はそればかりではない。暗く湿り気を帯びた空のように、そこで暮らす人々の心の深層に潜む“影”を、時にサスペンスであったり、ラブ・ストーリーであったりと語り口を変えながら画面にあぶり出していくのだ。その様こそが彼の映画の特徴であり、演出の才だ。そんな形で『スターダスト』や『クライング・ゲーム』、『マイケル・コリンズ』等の傑作が生まれている。特に最も彼自身の根源に迫っている作品は、96年に製作された『マイケル・コリンズ』だ。この映画は、アイルランドの実在の伝説的な革命闘士の生涯を描いた作品。そんな内容だけに、彼自身のテーマ、根源、アイデンティティーに言及 一 つまり、“影”を丸ごと受け入れ、“影”と向き合いそれを直視した作品だと言えるだろう。 さて、最後に数あるニール・ジョーダン監督作の中から私がベスト1だと思う映画を紹介して締めたい。86年製作の『モナリザ』である。この作品は、監督がナット・キング・コールの大ヒット曲『モナリザ』に触発され脚本を執筆し制作した映画だ。黒人高級娼婦に恋した冴えない中年のチンピラやくざを描いた監督第3作。本来ならば秋の夜長にオススメしたい映画だが、まぁ、人というものは、春だってロマンティックな気分にはヒタリたいもの。いや、いつだって、ロマンティックならば、両手を広げて大歓迎だろう。そんな気分にうってつけの映画かもしれない。未見の方は是非ご覧頂きたい。もちろん、この作品のもう一つの見方として、“影”と映画作家の内に秘めたるテーマとの因果関係(“影”を丸ごと受け入れて製作したのか、削ぎ落として製作したのか、徹底的に拒否して製作したのか……)を探ってみるのもいいだろう。
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